白龍権現

 小樽の西北、祝津の海岸に赤岩山という岩山があるが、そこの洞窟に、昔巨大な白蛇が棲み着いて近付くものは人間でも動物でも、ただひと口に呑み込んでしまった。
 そこで村人のアイヌたちは、大蛇の機嫌をとるため穴の入り口に熊や鹿の肉を供え、「どうぞこの内を召し上がり、その替わりに人間は食べないで下さい」と頼んでいた。

 するとある夜、コタン (村) の酋長ウヘレチの夢に、この大蛇が現われて、
「今年から毎年、八月の祭りの夜、コタンのメノコ (娘)をひとりわしに捧げろ。もしいうことをきかぬと、村中を恐ろしい目に遭わせるぞ。」と告げた。
 驚いた酋長は、八月の祭りの当日、村中の娘を集めくじ引きをさせ、当たった者をかわいそうだが大蛇に供えることにした。この生賀は毎年つづけられ、やがて九年目となった。
 その年、酋長の娘のシトナイは父のウヘレチに向かい、「いままでわたしたち姉妹だけは、酋長のメノコだというのでくじを引かないでよいことになっていました。でもわたしも同じコタンのメノコです。今年はくじ引きを止めてください。わたしが生贅になります」と申し出た。ウヘレチは驚き、しきりに止めたが、シトナイの決心は変わらなかった。

 いよいよ八月の祭りの夜になると、シトナイは父に、「猟犬のトケと、よく切れるマキリ (山刀)を貸してください」 と頼み、トケを連れマキリを携えて赤岩山へ出掛けて行った。山へ着いたシトナイが岩陰に隠れて様子をうかがっていると、やがて洞穴の中から大蛇が現われ、らんらんと目を光らせながら、ただひと呑みとシトナイに襲い掛かって来た。そのとき、目にも止まらぬ速さで大蛇の口の下をかいくぐったトケが、相手の咽喉に鋭い牙を突き立てて噛み付いた。
 思いがけぬ攻撃にひるむ大蛇を、トケはなおも矢継ぎ早に噛み伏せ、シトナイもマキリを抜いて斬り付けた。たてつづけの攻撃に、さしもの大蛇も血だらけとなり、ついに動かなくなってしまった。


 こうして村人の苦難を救ったシトナイとトケを、人々は褒め称えたが、同時に大蛇の祟りを防ぐため赤岩山の頂上に祠を建て白竜権現と名付けて、コタンの安泰を祈ったという。

*今の小樽は人気の観光スポット、四季を問わず多くの観光客がこの地を訪れます